シンさんは愛妻家
「えっ?先生の部屋に行くんですか?」

と再び乗せられた車の中でぼんやりした顔で彼女が言う。
まだ熱は下がりきっていない。

「そうだよ。しばらく僕の部屋に住むといい。
あそこに行けば僕は安心して君を置いて仕事に行ける。
セキュリティーも万全だし、
食べるものも、飲むものも十分にあるし、
ペットも飼育可能。
君を十分に療養させて、
僕の食事をたくさん食べさせて太らせてから手を離そうと思って…
じゃないと、僕が安心できない。」

「…なんで…私を助けてくれるんですか?」

「君がネコを助けたのと同じ。
放っておけないんだ。
…理屈じゃない。
自分に不利益が起こるのは仕方ない。
まあ、そう、困ったりもしないと思ってるんだ。
僕は決まった恋人は持たないつもりだし、
女の子は部屋に入れるつもりはないんだ。
部屋に君が居ても困らないよ。」

と言いながら、知り合いのやっている動物病院の前に車を停める。

さっき買って来た猫のキャリーケースにはいっている
グレーの体に足先の白い小さな猫を車の外に持ち出す。

「ど、どこに連れて行くんですか?」と驚く彼女に

「健康診断と、予防注射。
後はシャンプーをしてもらって綺麗にしてもらう。
明日、仕事の帰りに連れて帰るよ。
それに必要なものも揃えてから迎えたい。
僕は綺麗好きだし、用意はきちんとしなければ受け入れがたい」

と顔をしかめて言っておく。

彼女は「はあ」とわかったようなわからないような返事をした。


君も猫の扱いなんだけど…


と思ったけど、口に出さずに、微笑んでおいた。




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