シンさんは愛妻家
僕の隣にいなさい。
「常盤先生、なんだか最近元気ないっすね。」

と僕の前の席でカツカレーをかき込む和田が僕の顔を見る。

イブキがいなくなって7日。

彼女は自分の荷物も取りにも来ていない。

このまま…

二度とイブキに会えなくなるのだろうか?


僕の憔悴っぷりは、誰が見てもわかるらしいので、

「…猫が…いなくなったんんだよ」

と言う事にしている。

「髪の長い猫?」と嬉しそうな和田に

「いや、本物」

とタビィの画像を見せると、

「いやあ、本物の猫だ。可愛いっすね」

「だよね」

と和田の隣に座っている八木。



「先生、他の猫じゃダメなんすか?」と和田。

「…普通、ダメだろ」と八木。

うん。

僕も、
ダメだと思う。


イブキがいい。

とため息をついた。



「先生、元気出してください」と八木。

「先生、あの店、また連れて行ってくださいよー。
『まだ坊やは会員になれないわ。』とかママに言われたんすよ。
俺、カナちゃんとサキちゃんに会いたいっす。」と和田。

…僕はイブキに会いたい。

と天井を仰いではあとため息をつく。



「これは、ダメそうだね。僕が行ってあげようか?」

と僕の隣で定食を食べる榊が笑う。

「えー?榊先生いつのまに、会員になってるんですか?」

と楽しそうな声がする。


ま、しばらく僕抜きで頼むよ。

と僕は頬杖をついて、彼らの様子をみていると、

「常盤せんせい!」

とワインレッドの身体にピタリとしたワンピースを着た
背が高く、くっきりと化粧を施し、長い髪を揺らしたたオンナが
凄い勢いで僕に向かってずんずん歩いてくる。

明らかに夜のお仕事をしていると思われる。

「すげー、美人」

と和田がスプーンを掴んだまま口を開ける。

「常盤先生。
あいかわらずモテますね」

と榊が僕に微笑みかけるけど、

僕だって、知らないオンナだ。








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