愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
真剣な一ノ瀬さんの表情にひとまず安堵する。周りに人がいるうちは何かして来ることはないだろう。なんたって、猫被りだから。
「はい」
仕事、仕事。切り替えないと。
「この企画書、アピールの仕方とターゲットはいいと思うけど魅せ方が足りないかな。これだと費用を上回るのは難しいな。一部にしか広まらないと思う」
「そう、ですか……」
一ノ瀬さんは仕事において少しの妥協も許さない。もっと、もっと、と問い詰めて最高のものが出来るまでは絶対にOKは出さない。
優しい顔して「もっと頑張ってみようか」と元気付けてくれるから、今までなんとなく誤魔化されていたけれど、そういうところも今思えば悪魔だったと納得出来る。
「メールで修正点を書いて送ったから確認してもらえる?」
「分かりました、修正して再提出します」
「うん、今日までによろしく」
「はい、今日までに……えっ!今日ですか!?」
「うん、今回ちょっと早めに欲しいんだ」
はっと息をのむ。動作を止めて一ノ瀬さんを見たら彼は柔らかな笑顔を向けて言った。
「朝比奈さんならきっと出来るよ」
優しい声に穏やかな笑顔。
前までときめいていたその笑顔にはもう騙されない。
私にはやれるよな?と脅しているようにしか見えなかった。