愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
言うなって言っただろ、と。
一ノ瀬さんは私たちの後ろを通り過ぎ、資料を取ると、もう一度戻って来て私に伝える。
「ああ、そうだ、朝比奈さん。後で会議室に資料を取りに来てもらってもいいかな。説明しておきたいこともあるし……」
「えっ」
絶対に嘘だ。
だってこの顔は断らねぇよな?という顔だ。
「い、い、よ、ね?」
私にだけ聞こえる小さな声で伝えてくる一ノ瀬さんに当然逆らうことなんて出来なくて。
「はい……分かりました」
私は頷く羽目になってしまった。
最悪だ。
全く、いつもいつもなんていうタイミングで現れるんだ。
それから、私はキリのいいところでデータを保存すると重い足取りで会議室に向かった。
何を言われるのか怖くて仕方がない。
ドアをノックして恐る恐るドアを開けると、彼は窓際に佇んでいた。
相変わらず絵になるようなスタイルで窓に反射する光が彼を照らしている。
「お疲れ様」
彼が柔らかな笑顔を見せる。
ああ、もう。この顔までも怖いと思うようになってしまった。
「朝比奈さん」