愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
しかし、その時思い出されるのは離れていく一ノ瀬さんの唇で。もしかして私、無意識に見てた……?
そう意識するとぶわっと顔に熱が集まった。
「はは、そんなんじゃ時間の問題かもな」
私の考えを読み取った彼は鼻で笑って言った。
悔しい。
「い、今のは違いますから!私が一ノ瀬さんとのキスを名残り惜しいと思うなんて……絶対ないです!」
「はいはい。強がりがいつまで持つか楽しみにしてるよ」
彼はひらっと手を振ると、先に会議室を出て行った。
いつまでも一ノ瀬さんの前では余裕でいられない。それが本当に悔しかった。
午後。
昼食を取りデスクに向かうと、一ノ瀬さんがジャケットを着ていた。
外出かな?
そう思っていた時。
「朝比奈さん、今動ける?」
彼は私にそう言った。
「はい、今急ぐ仕事は入っていないので大丈夫かと」
「じゃあ一緒について来てもらってもいいかな?クライアントと打ち合わせするんだけどかなり行き詰まってるみたいで……女性の意見も欲しい」
「分かりました」
私はすぐに上着を羽織ると、一ノ瀬さんと共にタクシーに乗りこんだ。