愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
これから始まるクリスマス商品のプロモーションにどのタレントを起用するか、どんなものにするか決まってはいるものの、完全なOKが出ないらしい。
「なんかどれもイマイチなんだよな」
一ノ瀬さんはタクシーに乗ると、吐き出すようにそう言った。もう一ノ瀬さんの2面性にはだいぶ慣れて来てしまった。
「これから行くクライアントの会社って、確か男性しかいないんでしたっけ?」
「ああ、今年1人辞めて事務にしか女性がいないらしい。どうも柔らかさが足りない。向こうも意見を求めてるから、お前にはどんどん言ってもらって構わない」
「分かりました」
それからしばらく走ると、タクシーは路肩に寄せるように止まった。車から降りて、エントランスに入ると、一ノ瀬さんは受付の女性に声をかける。
その後、案内される通りにエレベーターで上に上がると、開いたドアのすぐ前に男性が立っていた。軽い挨拶を交わしてから会議室に案内される。
そこで少し待っていると、後から1人男性が中に入って来た。
「遅くなってすみません、吉井と申します」
少し筋肉質の体に、やわらかい笑顔を見せる男性。その顔に見覚えがあった。