愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~




「ではこれで、決定ということで」


私のざわざわした気持ちとは裏腹に打ち合わせはスムーズに進んでいった。懸念していた部分も色んな意見を取り入れたことで、かなり面白いアピールが出来そうだ。


「今後ともよろしくお願いします」


会議が終わると、吉井くんと彼の上司らしき人は私たちをエントランスまで送り出してくれた。一ノ瀬さんと彼の上司が話している中、吉井くんは言う。

「驚いたな、まさか会うなんて思ってもなかったよ」

「私も、取引先だなんてビックリだよ」

「連絡先は変わってない?」

「うん」

「良かった、じゃあまた連絡するよ」


小声でそう言った彼に頷くことしか出来ず、私はすぐに目を逸らす。すると、一ノ瀬さんたちの会話もちょうど終わったようで、改めて挨拶をして分かれた。

外はもう薄暗い。

タクシーを呼んで待っていると一ノ瀬さんはつぶやくように言った。

「打ち合わせの最初の方、ボーッとしてただろ」

「え!あ、えっと……すみません。知り合いと会ったので色々考えてしまって」

「ふぅん、それは忘れられない男、ってところか?」

「えっ!」

指摘され、顔に熱が集まった。「違います!」なんてしどろもどろに否定していては答えを言っているようなものだ。

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