愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
ほら。そうやって私の反応を見て楽しんで……。私が深くため息をついた時、一ノ瀬さんは上着のポケットから、スマホを取り出した。
着信だ。
「……なるほど、分かりました。ではこのまま向かいます」
どうやら別件が入ったようだった。電話を切ると、彼は私に視線を向ける。
「お前はこのままタクシーで会社に戻ってくれ、俺はもう1社行くことになったから電車で向かう」
「分かりました、書類だけ作っておきます」
「よろしく」
背を向ける一ノ瀬さん。そんな彼を見ていると、彼は一度振り返って言った。
「今回はお前のお陰でスムーズにアイデアが出てきた。ありがとな」
ふわっと笑う。その笑顔が作られたものじゃなくて自然なものだったので、私は息を詰めた。その場から去る彼の背中をただ、ぼうっと見つめる。
ドキン、ドキン。
今のは完全に不意打ちだ。
「ずるい、な」
普段みんながいる時は完璧だけどそれは嘘の顔で、素を見せると悪魔のような人。でも、そんな姿にも嫌でも胸が音を立てる。
なんだろう、私。だんだん一ノ瀬さんの素の姿もいいかもって思ってない?
いやいや、そんなハズはない。相手は悪魔だ。ぶんぶんと首を振り、自分に言い聞かせると私はやって来たタクシーに乗り込んだ。