愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
一ノ瀬さんが来てすっかり返事をしにくくなった私はスマホの画面をおとした。休憩スペースには私と一ノ瀬さんしかいない。
彼は何しに来たんだろう。出勤前に休みに来た様子でもないし。
「えっと、一ノ瀬さんは何か用事が?」
「別に?お前が見えたから寄っただけ」
へ、へぇ。用事があるわけではないってことは、私をからかいに来たのだろう。
「どうせまたからかうつもりで来たんですよね?」
「決めつけんなよ」
「一ノ瀬さんのすることは分かってますから」
「別にからかうつもりはないけど、一つ言うなら……」
そこまで言って、一ノ瀬さんは私の肩を引き寄せた。
「ちょっ、」
そして私の耳を自らの口元に近づけると、低く心地のいい声で言った。
「それ、行くなよ」
「えっ」
行くなって、どういう意味?私は驚きで目を見開いたまま固まった。
「行ってほしくない」
それだけを言って、ドアへ歩き出す一ノ瀬さん。なに、考えてるの?
「あっ、の一ノ瀬さ……」
そう呼びかけると、ドアに手を掛けた彼は「バーカ」とひとことだけ残して去っていった。
「えっ」
ガチャンと虚しく音を立てて閉まるドア。やっぱり、からかってただけ?
あの悪魔め〜〜!ちょっと期待した自分がバカだった。だって、あんな真剣な瞳で「行くなよ」なんて言うんだもん。
少しドキっとしてしまった……。