愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
会社を出ると、すっかり暗くなった空に冷たい風が吹く。時期は十一月。けっこう冷え込んで来たと思う。電車に揺られ、三十分で待ち合わせしていた駅に着いた。
「お待たせ」
「お疲れ様」
時間はギリギリになってしまったけど、すぐに彼を見つけ出すことが出来た。薄めのコートを着て鼻の頭を赤くしているところが、学生時代にもあったなあ、なんて思い出して懐かしい。
「ここからすぐだから、もう向かおうか」
「うん」
店は五分くらい歩いたところにある居酒屋。飲み屋にしては落ちついた雰囲気の店で、部屋はひとつひとつ襖で仕切られているため、そこまで人の声が気にならなくていい。
着ていたコートをかけると、メニューを見ずに飲む物を注文する。
「とりあえず生で」
「じゃあ、私も同じので」
飲み物を先に頼んでから、料理を適当に注文すると、すぐにビールが運ばれて来た。
「お疲れ様〜」
キン、と音を立ててグラスが合わさって、正面には吉井くんがいて、なんか変な感じだ。
最初こそ緊張していたものの、会って少し話せばそんなのも無くなってしまった。
「それにしても、こんな出会いがあるなんてな〜」
「ビックリするよね。まさか取引先で会うなんて思いもしないもんね」
私はしみじみとつぶやく。
「本当運ってやつだな」
「会った時、ビックリして動揺しちゃったもん」
「俺だって、プレゼン変に緊張しちまったし」