愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
「ていうかさ、もう夏帆は名前で呼んでくれないんだ?」
「えっ!」
「昔はあんなに呼んでくれたのになぁ」
「それは付き合ってたからで……」
はっとして、口をつぐむ。相手が私と付き合ってたって、カウントしているのかも分からないのに、そんなこと言うんじゃなかった!
何の話?なんて言われたら、気まずくなるじゃん、私のバカ!
恐る恐る彼の表情を伺うと、私の想像とは反対に嬉しそうな表情を見せた。
「なんだ、ちゃんと覚えてたんだ。あまりに普通だから忘れちゃったのかと思った」
「覚えてるよ」
なんだ。吉井くんにとっても私と付き合っていたことはちゃんと記憶にあるんだ。
良かったのかは置いといて、なんとか気まずくならなそうでほっとする。
「あの時は色々あったよね〜」
「確かにな、俺もあの時は考え方が幼かったなって思うよ」
そうなんだ?そんなこと、初めて聞いた。吉井くんは当時から大人っぽくてリードしてくれるような人だったと思う。
「夏帆とのこと、忘れたことないよ」
「え、」
「ずっと後悔してたから……」
後悔?これって聞いていい話なの?急に話の内容が重たくなり、私は戸惑った。
そこはあの時はさ〜みたいな話をして終わるところじゃないの?
頼んだお酒はあまり飲まないようにって思っていたのに、気づいたら気まずさを誤魔化すために手が伸びてしまう。
お互いに、もう結構飲んでいる気がする。