愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
そんな苦い思い出を今でも引きずっているせいか、それっきりいい関係になる人はいなかった。
全く、昔のことをいつまで引きずっているんだろう。このままずっと相手が出来ず生涯を終えていくんだろうか。
そんなことを考えていると。
「朝比奈さん、そこ間違ってるよ」
「えっ」
私は突然、一ノ瀬さんに声をかけられた。
我に返ってパソコンの画面を見ると、全く違うデータが入力されている。
「あ、本当だ……ありがとうございます」
「いいえ」
相変わらずカッコいい。
何とも言えない色気と落ち着いた雰囲気のある一ノ瀬さん。
「あとここ、データが古いままだ」
背後からすっ、と手が伸びてパソコンの画面を指差す。すぐ後ろから甘い声で囁かれると体の奥底からゾクゾクと何かが這い上がってくる感覚に陥る。
苦手だ……。
私は一ノ瀬さんの醸し出す雰囲気がどうも苦手だった。
背後からふわり、と香る匂いや声のトーンにいちいち意識してしまって落ち着かない。
前から、ずっと。
「これ終わったら俺に提出してね」
「わかりました」
私はその視線を無理やり断ち切るかのようにパソコンの画面に向かった。