愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~






最初は本当に"ああ、見られちまったな"程度の気持ちだった。

口止めして上手くあしらって、それで元どおり。俺は表の顔を演じていつも通り人生を行き渡る。

当然上手くやる自信はあった。今まで失敗したことなんてなかったから。それなのに、まさか朝比奈なんかに、振り回されるなんて思いもしなかったんだーー。



『朝比奈夏帆です、よろしくお願いします』


朝比奈との出会いは入社式。

入社してきた時の朝比奈の印象は"なんだかトロそうな奴"だった。自分の行動に自信がないのか、言葉にもハキがなく弱々しい。

今年の新人はパッとしないな。
そんなことを思いながら、俺はいつもの笑顔を作り、手を差し出した。


『朝比奈さんの直属の上司にあたる一ノ瀬です。分からないことがあったらなんでも聞いてね』

『よ、よろしくお願いします』


握手を交わして、配置につく。正直、期待はちっともしていなかった。


それから数週間後。


『頼むよ、一ノ瀬くん。キミだったら絶対大丈夫だからさ〜』


上司が俺にめんどくさいクライアントを押し付けて来た。しかも指定されたものと違うデータを送ってしまった後だ。


『よろしく頼むよ、ねっ?』

『分かりました。なんとかします』




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