愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
これがよく言われている、相手を傷つけず断る言葉か。
なるほど、頷ける。言葉から表情まで本当に完璧な返しだと思う。
「わかりました。私の気持ち聞いて下さってありがとうございました」
彼女はぺこっと頭を下げると、そそくさとその場を立ち去っていった。
壁に張り付き身を潜め、再び会議室を覗くと、静まり返ったその場所に一ノ瀬さんがぽつり、と立っている。
夕焼けの光に当てられて、まるでファッション雑誌に載っているモデルみたいな姿にドキっと胸を音を立てた。
「……カッコイイ」
つい、ぽろっと声が漏れる。そりゃ、モテるに決まってる。
仕事も出来て、ルックスもよく、挙げ句の果てに性格までいい。
まるで王子様のような人だ。
そんなことを思いながら、わずかに開いているドアの端をノックしようとした瞬間、彼は吐き捨てるように言った。
「チッ、面倒くせえな」
え……?
ノックしようとした私の手はピシッと凍りつく。
今のは何?
私の幻聴?
そうだ、絶対にそう。一ノ瀬さんがこんな話し方をするわけがない。
ここのところの疲れが溜まっていたから、それが今頃やって来たのかもしれない。