愛縛占欲~冷徹エリートは溺愛を手加減しない~
「一ノ瀬さん、私……」
「悪かった」
私が声を出す前に発したのは彼の方だった。
私の崩れたシャツを治し、ゆっくりとボタンを上から順番に閉めていく。
「忘れてくれ」
小さくつぶやいた言葉はそれだった。そして1人立ち上がりどこかに行こうとする。
「ちょっと待ってください」
私はとっさに彼の手を取った。
「自分の気持ち言って、忘れてくれなんてズルいです」
私にだって言いたいことはある。勝手に人の気持ち決めて、だとか、勝手に勘違いして怒って、とか色々。
だけどもっと、そういうことじゃなくて、一番伝わる言葉がここにある。
「私はキス、名残惜しいって……ちょっと前から思ってました」
「……っ」
一ノ瀬さんは目を大きく見開いた。
『言っとくけど、今のキスが名残り惜しいって思ったらお前の負けだからな』
彼の言う負け。それに気づいていながら気づかないフリをした。だって、この人は誰にも本気にならない。私に手を出したのは口止めをしたいだけだ、そう思っていたから。
彼を自ら求めてしまったら、きっと虚しい気持ちになる。そう分かっていたから、ずっと気づかないフリをしていた。