優しいスパイス
パラパラと校内を歩く人たちを横切っていく。



感情が自分の体に収まりきらなくて、息が苦しい。



こんなに全速力で走ることなんてないから、もう肺と足が限界を迎えていて、頭が朦朧とする。



だけど、止まりたくない。



何も考えられないぐらい、息苦しくなればいいんだ。



走って。走って。


何度ももつれそうになる足を必死に動かして。



もっと遠くまで走って。







消えてしまいたい。









そう思った瞬間。


視界の端に一瞬黒い影が見えたと思ったら、右の二の腕に力強い抵抗力を感じて、引っ張られるように引き止められた。



前に進もうとしていた体が、引っ張られた反動で後ろに倒れそうになる。



「っと、危ねぇ」



背中を何かに支えられたかと思ったら、聞きなれない声が耳元に響く。




え、何!?




思考が追いつかないまま二の腕に目をやると、形の良い角ばった手が私の二の腕を掴んでいた。



誰かに引き止められた。



それだけを理解して。



ゆっくりと後ろを振り返った。

< 10 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop