優しいスパイス
――――……



私は何をしてるんだろう。



ふと、そんな思考が浮かんで、チラリと後ろを振り向くと、降りてきたエスカレーターはもう見えなくなっていた。



随分と進んでしまったらしい。



固まっていた思考が、回し車のように徐々に速度を上げて動き始める。



彼は私をどこへ連れていく気なんだろう。


彼は悪い人かもしれないのに、ついていっても大丈夫なんだろうか。



そうは思いながらも、どこか、大丈夫だという絶対的な自信が抜けなくて、変わらず彼の後をついていく。



そういえば、奢るって言われたんだった。



そんなことを思い出して、今更「え、」なんて驚いて声を漏らした。





その直後、彼がチラリと流し目で私を見て、右側の扉を押した。



押したまま待ってくれている彼のそばに慌てて駆け寄り、薄暗い店の中に入る。



「いらっしゃいませー」とやってきた店員さんが、彼と二言三言会話を交わして、奥へと誘導してくれた。




着いたのは、店のちょうど真ん中あたりのテーブル。



木目の入ったナチュラルな丸いテーブルの真ん中に、ランタンのようなライトが置かれている。



店の薄暗い照明にオレンジ色の淡い光が映える。



お洒落だなぁ、と目を向けていると、「どうぞごゆっくりー」と店員さんが去っていった。
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