優しいスパイス
その表情に、なぜか、ぎゅうっと胸の奥が締め上げられて苦しくなる。



衝動にも似た何かが体の中を駆けずり回る。



「あ、あのっ」



耐えきれなくなって声を吐き出した。



その途端に、喉の奥につっかえていた感情が一気に溢れ出して、ツンと鼻の奥を刺激する。



「あなたはっ……」



続けようとしたセリフが、肺に詰まって吐息だけが抜けた。



あなたは何者なの?

悪い人なの?



言えなかった言葉が、心の中で訴えるように叫ぶ。



ふ、と短く漏れた息が、虚しくランタンの光を揺らした。



視界に映る彼の顔は、いつもと変わらない無表情。



全てを見抜かれそうな鋭い視線。



また、ぎゅうっと胸の奥が締め付けられて、苦しくなった。



自分でもよくわからない大きな感情が、私の心臓を苦しめてる。



こみ上げそうな何かを抑え込んでいると、彼の鋭い視線が、スルッと私から外れた。





「……あの日のこと、ききたいんだろ」
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