優しいスパイス
背後から「ありがとうございましたー!」と快活な声が聞こえて、店のドアが閉まった。



ドアを背にして立つ私の横に、彼が静かに並ぶ。



店内とは違う、少し湿度の高い空気が、皮膚にジトッとまとわりつく。



「……あんたは、」



ポツリと、低い声が落ちて来た。



横を見上げると、彼は前を向いたまま、いつもの無表情。



「……警戒心が無さすぎる」



短い低音が鼓膜を揺らす。



何のことを言ってるんだろう。



意図がわからず彼の横顔を眺めていると、前を向いていた彼の視線がスルリと私の方へ流れた。





「俺は、いい人間じゃない」





彼の切れ長の流し目が、突き刺すように鋭くなった気がした。






「……あんたはもう、知ってるはず、だろ」










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