優しいスパイス
~~香恋side~~



ガラガラ、とサークルの教室である講義堂のドアを開けると、真っ先に目に入ったのは「香恋!」と笑顔を向ける春木先輩。



その笑顔につられて、あたしも笑顔で手を振り返す。



その次に目に映ったのが、お菓子を囲んで輪になり座る、紫映の姿。



「しーえ!」



駆け寄って肩を叩くと、振り向いて控えめな笑顔が返ってくる。



「あ、香恋先輩お疲れ様です。どうぞ」


「ありがとう!」



後輩があけてくれた隙間にお礼を言って、紫映の隣に座った。



「香恋ちゃん、いらっしゃーい」

「香恋先輩、お疲れ様です」



その場にいるみんなから歓迎の言葉を受けて、一番最後に。



「香恋、お疲れ」



紫映が私に声をかける。



いつもこのタイミングなのは、紫映らしいな、なんて思う。



「ほんと疲れたよー。今日レポート締切なの忘れててさー、朝から必死でやって、さっきやっと提出して来た」


「そうだったんだ。でも間に合って良かったね」


「うん。おかげで今日の講義全部すっぽかしたけど」


「そんな大変なレポートだったの?」


「そうそう。本当は一週間ぐらいかけてじっくり調べて書かないといけないやつ! そのレポートが成績の半分を占めるんだってさ」


「うわ……大変だったね。お菓子食べて元気出して」


「ありがとう。糖分が体に染みるー」



ははは、と笑う紫映につられて、私も笑う。



「紫映もちゃんと糖分とって元気出しなよー」


「ははは、私は元気だよ。レポートも地道に終わらせてるし」



紫映はそう言って笑ったから、あたしも笑いで返したけど、冗談で言ったつもりはなかった。



あたしは気付いてる。


紫映はこの頃元気がない。
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