優しいスパイス
――――――……



「紫映、また明日ね!」


「うん、またね。春木先輩も、さようなら」



サークルが終わり、春木先輩と帰る香恋を見送る。



二人並ぶ後ろ姿のシルエットは、まるで夫婦茶碗のようにバランスが良くて、日を追うごとに、お似合いだなぁ、と本物の微笑ましい笑みが浮かぶようになった。



時間は、確実に進んでいる。



春木先輩に失恋した自分は、過去になりつつある。



そう実感できるのは、時間のおかげだけではないのかもしれないけれど――。







いつの間にか二人の後ろ姿は見えなくなっていて、まだ明るい窓の外に視線を向けた時、ブブッと手に持つスマホが震えた。



スマホに目をやり、ロックを解くと、メッセージが一件。



『お疲れ様! 俺も今課題終わったから正門向かう!』



いつもとほとんど変わらない、定型文のようなそのメッセージに、『了解』といつもと同じ返事を打ち返して、画面を消す。



そのままスマホを鞄に入れて、ヒョイっと肩にかかった鞄をかけ直し、足を踏み出した。



ジージーと蝉の声が窓越しに聞こえる廊下を、出口に向かって進んでいく。



いつの間にか習慣になった、サークル終わりの日常。



これも、失恋を過去にしてくれているモノの一つなのかもしれない。
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