優しいスパイス
待ち合わせ場所の正門前に着くと、数秒も経たないうちにポンっと後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、「お疲れ!」と歯を見せて笑う綾月。
その数メートル後ろには、門の壁の陰からこちらをキッと睨みつけている美代さんが見えた。
「帰ろーぜ」
そう言って先に歩き出す綾月に、うん、と小さく頷いて、美代さんの視線から逃げるように体を反転させ綾月についていく。
背中に刺さる視線に気付かないふりをして、綾月の隣に人一人分の空間をあけて並んだ。
もう午後七時を過ぎているのに、真昼のように明るく照りつける太陽がジリジリと皮膚に刺さる。
じっとりと湿度の高い空気が体に貼りつく。
「今日美代が雪瀬のこと色白だって褒めてたよ」
「えっ」
「実は俺も昔から思ってた。雪瀬の周りだけ季節ずっと冬なんじゃねーかって!」
「あはは、何それ。私は夏が好きなのに」
「雪瀬夏生まれだもんなー。“雪瀬”って名前なのに」
「ははっ、もう、それ中学の時も同じこと言ってたよ」
「え、そうだっけ」
そんな会話をしながら歩く並木道は、余計なことを考えなくていい数少ない時間で、それがきっと、失恋を過去にしてくれたんだと思う。
遊園地で告白されたことなんて忘れてしまうぐらい、“友達”として振舞ってくれている。
そんな綾月に甘えたまま、今日もいつもと変わらない帰路を歩く。
振り返ると、「お疲れ!」と歯を見せて笑う綾月。
その数メートル後ろには、門の壁の陰からこちらをキッと睨みつけている美代さんが見えた。
「帰ろーぜ」
そう言って先に歩き出す綾月に、うん、と小さく頷いて、美代さんの視線から逃げるように体を反転させ綾月についていく。
背中に刺さる視線に気付かないふりをして、綾月の隣に人一人分の空間をあけて並んだ。
もう午後七時を過ぎているのに、真昼のように明るく照りつける太陽がジリジリと皮膚に刺さる。
じっとりと湿度の高い空気が体に貼りつく。
「今日美代が雪瀬のこと色白だって褒めてたよ」
「えっ」
「実は俺も昔から思ってた。雪瀬の周りだけ季節ずっと冬なんじゃねーかって!」
「あはは、何それ。私は夏が好きなのに」
「雪瀬夏生まれだもんなー。“雪瀬”って名前なのに」
「ははっ、もう、それ中学の時も同じこと言ってたよ」
「え、そうだっけ」
そんな会話をしながら歩く並木道は、余計なことを考えなくていい数少ない時間で、それがきっと、失恋を過去にしてくれたんだと思う。
遊園地で告白されたことなんて忘れてしまうぐらい、“友達”として振舞ってくれている。
そんな綾月に甘えたまま、今日もいつもと変わらない帰路を歩く。