優しいスパイス
学校から続く並木道を抜けると、左側にカフェや雑貨屋などの建物が並んでいて右側に車道が通っている、整備された歩道に出る。



正面の数百メートル先に見える、大きくそびえ立つ駅ビルに向かって、真っ直ぐ歩いていく。



「それでさ、その教授が中学ん時の荒井先生にすっげー似てんだよ」


「へぇー! 荒井先生懐かしい」


「だろ? 俺あの先生によく怒られてたから、教授のことも好きになれなくてさー」


「はは、怒られてたのは、綾月が授業中に私に話しかけてたからだよ」


「あはは、そうそう。そんでよく二人で怒られたよな!」


「私は完全にとばっちりだった」



笑い合いながら歩いていると、気付けば駅ビルはもう目の前。



香恋と帰っていた頃は、よく雑貨屋やカフェに寄り道していたから、綾月といると駅ビルまでの距離がとても短く感じる。



駅ビルに入ると、目的の改札口へは正面に数メートル進むだけ。



右往左往する人波を避けながら、手さぐりで鞄から定期券を取り出した。



瞬間、スルッと手から定期券がすり抜け、床に落ちてしまう。



「あ、」



綾月との会話を遮り、立ち止まって身を屈めた。



冷たいコンクリートに横たわる定期券に手をのばし、それを掴んで身を上げる。



「大丈夫?」



同じく立ち止まった綾月に「うん」と頷こうと顔を上げた時。



普段は見ない、地下へのエスカレーターが、視界に映って。



そのエスカレーターに乗る、見覚えのある人影に、ドクン、と心臓が跳ねた。

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