拘束時間   〜 追憶の絆 〜
恐らく、親父と叔父さんとの話合いは長くなることは間違いない。

俺はまだ、一社員という立場だが 。社員15万人を束ねる財閥の御曹司としての責任と自覚は、常々忘れてはいけないと考えている。

たった三人の会話でも、そこで決められたことが会社を動かして多くの人々の生活を支える糧となるのは間違いないのだから......。

俺は責任を果たすために、親父と叔父さんとの食事会に臨む。

「沙綾......、何度も電話してごめん。今日、急遽親父と叔父さんと食事することになったんだ。何時になるか分からないけど、あまり遅くない時間に連絡するね......」

今日、二度目の彼女への電話。

相変わらず。留守番電話だったことに、俺は打ちのめされた。

それでも、三度目の電話が留守番電話でも。俺は今日、必ず彼女に会いに行く ーー。



「優斗っ!」

親父は、側近の三宅さんとともに、叔父さんが指定した老舗の料亭に現れた。

「忠行は?」

「取引先への対応が長引いてて、先に親父と俺で始めててくれだって......」

「あいつ......。呼び出しといて遅刻か?まぁ、いい。その方が、お前に聞きやすいこともあるしな。お前、その後。こないだの彼女とはどうなってるんだ?」

何も知らない親父は、俺と沙綾のことを興味本位で聞いてきた。

俺は正直。親父を女たらしだと思っている。

英雄色を好むとは言うものの。 経営者としての親父は尊敬するが、一人の男としての親父は俺にとって反面教師。

それでも。俺を認知して、こうして御曹司として育ててくれたことには感謝しているが......。

しかし、それは正妻の子であった優斗が亡くなったからかもしれない。

親父は優斗の事が可愛くて仕方がなかったはず。だから、親父は俺の事をためらわず『優斗』と呼べるんだ。

俺に優斗を重ね合わせるように......。

これは、嫉妬ではない。

俺にとっても優斗は。たった一人の兄弟であり、そして、親友だった......。

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