拘束時間   〜 追憶の絆 〜
ーー 俺の母さん。

俺が知っている、母さんの事は。イギリス人で、カナダで親父と出会い、若くして親父の子である俺を身ごもって。未婚で俺を産んで苦労しながら俺を女手一つで育ててくれて......、

俺が5歳の時に。20代という若さで病気で亡くなったという事だけだ。

俺は母さんの実家も、どうしてイギリスからカナダに来たのかも、そして。どこで親父と知り合い、なぜ親父と結婚しなかったのかも知らない。

幼い頃。母さんに、

「僕のパパは、どうしてお家に帰ってこないの?」

と聞いても。いつも、お決まりのセリフのように、

「もうすぐ、あなたを迎えに来てくれるわよ......」

そう言って。親父の写真を俺に見せて優しく微笑むだけだった。

母さんが亡くなってから、カナダで孤児同然となった俺は一時期を施設で過ごした。

そして、6歳になる誕生日の少し前に日本から親父が俺を迎えに来た。

「怜斗、これからはパパと一緒に日本で暮らそうね。お前の兄弟も待ってるよ」

親父はそう言いながら、俺を抱き上げた ーー。

母さんが言った通り。

「本当にパパが迎えに来てくれた!」

そう思った俺は、素直に親父の腕に抱かれて日本へと渡った......。

俺が日本へ連れてこられる、ずっと前の話を俺が知らない母さんの話をこれから親父が話すと思うと、俺は緊張で背筋がこわばった。

そして、親父は重々しい口調で過去を語り出した。

「俺とシャーロットが出会ったのは、俺がカナダ支社の社長に就任して間もなくの頃だった。当時、行きつけだったバーでバーテンダーとして働いていた彼女に俺が一目惚れしたんだ......」

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