拘束時間   〜 追憶の絆 〜
行きつけの店でバーテンダーとして働いていた母さんに一目惚れした親父は、猛アッタクを繰り返し。ようやく母さんと付き合うことができた。

そして、付き合い出してから程なくして母さんは俺を身ごもった。

だけど、それと時を同じくして親父に日本への辞令が降りた。

しかも、ただの辞令ではなく。許婚、つまり優斗のお母さんと結婚して本社の社長に就任しろとの辞令だった。親父はその辞令を頑として拒否したが、俺の母さんは。御曹司である親父の立場と将来を案じて自ら身を引いた。

結局、親父は御曹司という星のもとに生まれた宿命には逆らえず。日本へ帰国して、優斗のお母さんと結婚した。

しかし、優斗のお母さんと結婚した後も親父は俺の母さんへの想いを引きずったままで。経済的な援助はもちろんのこと、手紙を送り続けていた。だけど母さんは親父からの経済的援助も手紙も断り続けた。

その代わりに。自分が亡くなったら、カナダで事実上の孤児となる俺を引き取って日本で息子として育ててほしいと親父に願い出ていた。

そして、俺の母さんは亡くなり。親父は俺を迎えに来たわけだが、優斗のお母さんはそんな親父の行動に対して妻として、とても傷ついた......。

自分の夫の愛が。今は亡き他の女性にも向けられていることに思い悩んだ優斗のお母さんは、自ら離婚を申し出た。

「お前の母さんのことも、優斗の母さんのことも俺は幸せにしてやれなかった......」

親父はそう言って、瞼に光るものを浮かべた ーー。

俺と優斗は、そんな大人達の事情とは関係なく。まるで一卵性の双子のように息がぴったりだった。

「お前と優斗には、それからお前達が愛した女性には幸せになってもらいたい。だから俺は、お前達に許嫁を作らなかったんだ。これは、お前達の母さんへの俺からの罪滅ぼしでもあるんだ......」

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