拘束時間   〜 追憶の絆 〜
「お前に。この話をしたのも、今日忠行から話があったのも。何か、時が来たような気がするな。怜斗、お前は大人になった。『personal advertise』に戻り、跡継ぎとしての役目を果たせ」

優斗が亡くなった今、俺が親父の一人息子で『personal advertise』の御曹司であることは間違いない。

親父は、いつの間にか俺を『怜斗』と呼ぶようになっていた。

「まずは、カナダ支社へ行ってもらう」

本社の社長である親父からの、この場にての突然の辞令。

拒否することは不可能だ。

しかし、その分親父は。優斗にも俺にも、愛情の制約は設けなかった ーー。

「分かりました」

財閥の上層部の一員として俺はCEOである親父へカナダ行きの返事をしたあと、その場から席を外した。

ーー 彼女へ連絡を入れるために。

仕事中も親父とおじさんとの食事会の間も。スーツのポケットに入れて置いたスマホからは何の手応えも感じられなかった。

彼女と付き合い出してから。これだけ長い時間、会話をしなかった日は一日もない。

不安と孤独と後悔が俺の心を真っ暗にしていた。

俺は彼女と繋がることを切に願いながら、スマホの画面をスクロールした。

10コール目。昼間と同じように、スマホは留守番電話に切り替わった。

そして、俺の不安な気持ちは胸騒ぎに変わった。


沙綾......。一体、どうしたんだ??

もしかして、彼女の身に何か起こっているのでは......!?

俺のせいだ。

俺が、彼女を独りにしたばっかりに......!!


「父さん、叔父さん。とにかく話は、一通り聞いたから......っ!」

「おいっ! 怜斗っっ!」

座敷で話を続けている二人を放って。俺は成り振り構わずに、昨日まで彼女と暮らしていたマンションへと向かった。

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