拘束時間   〜 追憶の絆 〜
「独りにしてごめんね......!ちゃんとゴハン食べた?今日は会社休んだの?ずっとベッドの上に居たの?」

「......」

矢継ぎ早に質問する俺に対して彼女は終始無言で。それ以前に、目の前に俺が現れた事すら分からないような感じだった......。

そして、抱きしめていても彼女は無反応で。まるで、くたびれた”ぬいぐるみ”のように、その柔らかくて細い身体を無防備に俺へ預けていた。

彼女はこんなにも柔らかくて、細かっただろうか?

これ以上小さくなったら彼女は消えてしまうのではないか?

俺はガラス細工のような彼女をそっと胸に抱いて静かにベッドへと身を横たえた。

「ん......」

すると今まで無反応だった彼女が俺の服を掴んで胸に顔を埋めてきた。

どんな理由であれ。甘えてきてくれた彼女へ俺は無性に愛しさが込み上げて、もっと彼女の深い部分に触れたくなった。だけど、そんな事をしたらきっと。今の彼女には到底受け止めきれない。

俺は我欲をねじ伏せて、彼女の髪に優しくキスをした。

そして、ベッドから正面に見える真っ暗な水槽の中に。彼女が”ニモ”と呼んだ、クラウンアネモネフィッシュを探した。

頭に浮かぶアネモネの花言葉。

君を愛す ーー。

嘘じゃない。約束する。

この夜が明けたら、その証を君に捧げる。

だから、俺を揺りかごにして安心して眠って。

「沙綾にとって俺がどんな存在であろうと、ずっと君を温め続けるから」

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