拘束時間   〜 追憶の絆 〜
重役出勤の親父が早朝から、こんなに冴えた声で電話に出るのは珍しい。

親父は俺からの電話を待ち構えていたようだった。そして、昨日俺が食事会を抜け出した理由をしっかり分かっていて、彼女とのことをとても気にしていた。

俺は先ず、昨日のことを社会人としてきちんと謝罪した上で、改めて親父に宣言した。

「父さん。今日、俺は彼女にプロポーズする。受け入れてくれたら彼女を連れてカナダへ行く」

「そうか......!!頑張れよ!!」

大人の男である親父は、少年のように真っ直ぐな言葉で応援してくれた。

俺は、そんな親父の言葉がありがたく、少し微笑ましくも思えた。

過去は変えられないけど、未来は作れる。

希望を胸に俺は彼女への指輪探しを始めた。


中心部に軒を連ねる数々の有名ブランドショップ。

その中でも、とりわけ伝統と格式の高い老舗の海外ブランドの店へ立ち寄った。

俺の身なりを見て、店員が素早く声をかけてきた。

「恋人へのプレゼントですか?」

「婚約指輪を探しています」

ストレートに婚約指輪と自分の口から出た時、俺は嬉しかった。

不思議だ。彼女への愛の証ともいうべき宝石を探しているだけで心が温かい。

この温かい気持ちに見合う指輪を彼女へ贈ろう。

俺が留守の間でも変わりに彼女を温めてくれるように......。

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