拘束時間   〜 追憶の絆 〜
俺が彼女のために選んだ指輪は、プラチナの材質にブリリアンカットを施したダイヤモンドが中央に輝いている、実にシンプルなデザインのものだった。

余計なものは要らない。

俺の愛だけを彼女へ ーー。

俺は丁寧に包装された指輪を携えてマンションへと戻った。

時間は午後3時。

昼をとっくに過ぎているが、彼女は今日きちんと食事を摂ったのだろうか?

もし、何も食べていない、食欲がない......というのなら、

俺がいくらでも。おかゆでも何でも作ってあげる。

財閥の御曹司である前に、俺は君の恋人であり。君は俺の大切な女(ひと)だから......。

指輪が入ったブランドショップの袋を大事に持って、俺は部屋のドアを開けた。

昨日と同様に。部屋には明かりがついておらず暗かったが、きっと。彼女はまだ寝室にいると思い、さほど動揺はしなかった。

俺は長い廊下を抜けて寝室の扉を開けた。

相変わらず寝室は真っ暗で、冷たい空気が廊下に流れ出した。

俺は彼女の状態が昨日と変わっていないと思い気落ちしたが。それでも今はただ居てくれるだけで良いと思って、彼女が横たわっているベッドに目を向けた。


ーー 俺は状況が飲み込めず。しばらくの間、呆然としていた。

今朝俺がベッドサイドに置いた彼女へ宛てた手紙は。読まれたのか読まれていないのか分からないくらい、折り目正しく元の姿でそこに置かれていた。

だけど、手紙の余白に記された短い言葉が全てを物語っていた。

「さよなら」

あの夜と同じ。彼女からの俺への言葉。

俺の心は死んだ......。

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