拘束時間   〜 追憶の絆 〜
「よかった......。苗字、『牧村』のままで。いや、でも......。恋人はいるの??」

「え......」

私を見つめる彼の瞳の奥が何も変わっていないことに、私は作業中の手が止まった。

だって、まさか......。 

8年も経ってるのに ーー。

緊急手術の後ですら、あんなに穏やかな顔をしていたのに。今の彼ったら、まるで。迷子の子供みたいに不安そうな顔をしている。

「いないよ......」

「じゃあ、好きな男(ひと)は?」


ーー 私、怜斗のことが好き。

あなたのもとを突然去って、あれからずっと後悔してたの。

ずっと、怜斗に会いたかったの ーー。

こんな風に素直に言えたら、どんなに楽だろう。

「好きな男(ひと)は、いるよ......」

「どんな男(ひと)?」

そう、彼に言われた時。私の想いは溢れて、でも言葉にできなくて.......。

代わりに涙がこみ上げた。

私は彼に涙を見られないように背を向けたが、彼は私の様子に気がついた。心の内までも。

「全部話して、沙綾が思ってること。俺の知らない沙綾の8年間。少しずつでいい、毎日俺の病室に来た時に。俺も話すから、全部......」

「うん......」

「約束だよ。じゃあ......約束のキスをしよう?」

私、今勤務中だよ ーー??

なんてことは、もういい。

だって、怜斗に会えたんだから。

生きててくれたんだから。

ーー 私。ずっと怜斗にキスして欲しかった......。

「んっっ」

「......んっ」

彼は私にキスをしながら。まだベッドから起き上がれない身体でも、唯一動かせる指先で私の髪を撫でてくれた。

結んだ髪の中に彼の指先が入ってきて、ただ髪を撫でられているよりずっと指先の感触が伝わってきた。

なんだか私の方が介抱されているみたい。

優しく髪を撫でてくれる彼は。いつかの夜のように、私の心を温めてくれた......。

「もっと、沙綾に触りたい......」


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