拘束時間   〜 追憶の絆 〜
梅雨明け間近の、雨の日の木曜日。

今や、世界を股にかける大財閥の"CEO"である彼の退院の日は本来、会社の重役や、お抱えの運転手が仕事を押して彼のために、この小さな田舎街へ足を運ぶのが礼儀なのだが彼自身の指示で退院は、おろか面会にも訪れなくていいという業務命令が発せられていた。

その理由は”会社”と”社会”へ第一に貢献してほしいという彼の方針であった。しかし、それ以上に彼は何よりも私と二人きりで過ごす時間を大切にしたいからと言ってくれた......。

今は社長を退き会長の座にある彼のお父さんは、彼が事情を話すと、独身の息子の将来を優先して退院後に向こうで彼と会うことになったそうだ。


「雨か......」

彼は病院の正面入り口を出たあと、静かに地上を濡らす灰色の空を見上げて囁いた。

「晴れてたら、森林公園とか行けたんだけどね。ここは田舎だから、自然以外あまり見るものがなくて......」

「それなら......、俺の部屋でデートしない?」

「うん......」

私は彼に一歩近づいて、彼の左手を握り素直に応じた。

そして、彼は私の手を強く握り返したあと。指先を互い違いにして絡ませてきた。

冷たい雨が、絡み合う指先の間をすり抜けて一刻も早く重なり合いたい気持ちを誘った......。

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