拘束時間   〜 追憶の絆 〜
明日、向こうに帰る彼は。今日、空港近くのホテルに泊まる。

そして、私も。今夜は彼と一緒に、このスイートルームに泊まる ーー。

こんな田舎街では、たとえスイートルームと言えども。そこから望む夜景は質素で、夜空を見上げた方が何倍も美しい。

無数の星座の中で一際輝く北斗七星は、昔から旅人が道に迷わないように目印にしたと言われている星だ。

いつも怜く優しく旅人を導いてきたその星は、私が愛した二人の男性にも似ている。

幼いころから。私の無垢な恋心をずっと導いて、彷徨わないように愛してくれた。

ーー 今夜は、もっと愛して欲しい......。

唇を使うのなら。言葉ではなく、キスを......。

彼のキスを受けとった時に私の胸に宿る愛しい想い。

スイートルームのほの暗いオレンジ色の灯りは。彼と暮らした部屋を思い出させて、そこで交わされた、たくさんのキスを思い出させた。

「おいで......」

あの頃の彼は。いつも私の気持ちを見極めてから、そっと触れてきた。

だけど8年経ち、今30代になった彼は私をリードするように誘い、余裕を感じさせる。

私は彼の大人の男の誘い方に、胸が早鳴りになった......。 

「怜斗として。沙綾を抱きたい」

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