拘束時間   〜 追憶の絆 〜
今日の夕方、彼は本社がある向こうに帰る。

そして、一ヶ月後に私を彼のお嫁さんにするために迎えに来てくれる ーー。

だけど。その一ヶ月間、彼に会えないと思うと。私は、これから始まる彼との約束された未来よりも、こうして”あられもない姿”で彼が私を優しく抱きしめてくれる今の時間がずっと続いて欲しいと願ってしまう。

「沙綾。一ヶ月間も会えなくて寂しい思いをさせること、本当にごめんね......。」

「うん......。寂しい時は、怜斗がたくさん私を抱きしめてくれたことを思い出すから大丈夫......」         

これからの一ヶ月間、彼に会えなくて寂しい時は。昨夜、彼の愛を全身で受け止めて彼の香りと温もりが宿った、この身体を慈しんで過ごそう。

「あのね、沙綾に渡したいものがあるんだ......」

会えない期間の心構えを自分自身に言い聞かせた時、今までベッドの中にいた彼が私の気持ちを察したように行動を起こした。

彼は身体を少し起き上がらせてベッドサイドに手を伸ばし、スタンドランプの横から赤いサテンのリボンが結ばれた白い小箱を取り出した。

ベッドサイドに小箱が置かれていたことなんて、全然気がつかなかった。

昨日の夜も。今日の朝も。

私は、ずっと彼だけを見つめていたから......。

「左手を出して」

状況を理解した私は嬉しくて、愛しくて、差し出す手が震えた。

彼は私の左手に軽くキスをしてから、薬指に清らかな輝きを放つ一粒のダイヤモンドがあしらわれた指輪をはめてくれた。

「サイズぴったりだ。沙綾は8年前と何も変わっていないね。俺も、この指輪を買ったときの気持ちのまま、ずっと沙綾を愛し続けてる。この指輪はね、本当は8年前に沙綾に渡そうと思ったんだ。だいぶ時間がかかったけど無事に渡すことができてよかった。さすがにデザインは古くなってしまったけど......。というか、もともと婚約指輪はオーダーメイドで作って沙綾の気に入ったものを贈りたい。だから、この指輪は俺達が会えない一ヶ月の間のお守りとして身につけて欲しい......」

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