拘束時間   〜 追憶の絆 〜
彼を見送った翌日から早速、会えない寂しさが私を襲った......。

彼に抱かれた夜に私の身体に宿った香りと温もりは、時間が経つごとに消えていった。しかし、それは彼が私を迎えに来てくれる日が近づいている証だと思い糧にした。

そして、彼が私へ贈ってくれた左手薬指に輝くダイヤモンドを眺めては、温もりを再燃させて会えない日々を乗り越えた。

私は両親に会って欲しい人がいると告げ、その人は優斗君のお兄さんだと言うと最初とても驚いていたが、やはり私が感じているように。きっと優斗君が巡り合わせてくれたんだと言い、母は嬉しそうに目頭を熱くしていた。

しかし、彼の社会的な身分を考えると。ごくごく普通の家庭で育った私に社長夫人としての務めや、あまりにも育った環境とはかけ離れている立場に身を置くことに強いプレッシャーやストレスを感じるのではないかと心配していた。

だから私は、これから家族になる怜斗のことを丁寧に両親に話した。

「怜斗さんが、そこまで沙綾のことを想ってくれるのなら安心してあなたを任せられるわ。あの、優斗君のお兄さんだもの。きっと、沙綾を幸せにしてくれるわね。ねっ、お父さん」

「うん?う〜ん......。まぁ、沙綾がその男じゃなきゃダメだって言うんだから、仕方ないだろう」

一人娘を嫁がせることになった父は諸手を上げて祝福するといった感じではなかったが。怜斗が挨拶に来た時に、彼と話せば父も彼の人柄をきっと信頼するに違いない。

そして、短いような長いような一ヶ月が過ぎて、彼が私の実家へ挨拶に訪れる日が来た。

病院での勤務最後の日。私は本来、早番で上がるはずだったのだが突如急患が入り、どうしても人出が足りずに残ることになった。

その後、寿退職の挨拶を終えて帰宅した時は夜の10時を過ぎていた。

私は翌日。朝から美容院を予約していたために、ろくに睡眠も取らずに寝不足のまま彼を迎えることになってしまった......。

「じゃあ、お母さん。私、美容院へ行ってくるね。11時には戻るから、それから家族で彼を空港まで迎えに......」

私は、この日のために用意した淡いサックスのワンピースを着て、それに合わせて買ったオフホワイトのパンプスを履き玄関を出ようとしていた。

ーー ?

......おかしい。

目の前の景色がぐるぐると回って見える。

なんてこと......、

ようやく、彼に会えると思ったのに ーー!

彼に会いたい気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞かなくて私は悔し涙を流した。

「沙綾っっ!!」

私は母の叫び声を聞いたのを最後に。景色が暗くなり周りの音も何も聞こえなくなった......。

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