拘束時間   〜 追憶の絆 〜
「沙綾っ!」

今度は誰だろう?

私を呼んでいるのは。

私を呼ぶ声が重なって耳の奥に届いた。

何人もの人が私を呼んでいる......。

ところで優斗君は??

さっきまで、ここに居たはず。

私は優斗君の姿を探そうと瞳を動かした。

そして、最初に。目に飛び込んできたのは見慣れた病室の天井だった。

ここは私が昨日まで勤務していた病院で、優斗君が事故に遭ったあと運ばれた場所。

優斗君生きてたんだ......!本当に良かった......!

私はさっき優斗君に会い、彼が頭を撫でてくれたことを思い出しながら天井を仰いでいた。すると、その景色を遮るように怜斗の顔が私の目に映った。

「沙綾っ、良かった気がついて......」

「怜斗......。どうして?私、まだあなたを迎えに行ってない......」

「沙綾は、今朝玄関で倒れたんだよ」

おぼろげな視界と意識がはっきりとしていくうちに、さっき優斗君に会ったのは夢の中でだったことを理解した。

「妊娠の超初期症状で貧血を起こす妊婦さんがいるんだって」

「え......?」

私は一時、彼が誰のことを言っているのか分からなかった。

事態を把握できずにぼんやりとした顔をしている私に。怜斗は、私の両親が居るのも気にせずに私の手を握り、ごく自然に頭を撫でた。

「俺と沙綾の赤ちゃんができたんだよ......!」

下まぶたに弧を描きながら嬉しそうに話す彼を見て、ようやく自覚した。

彼からもらった命が私の胎内に宿っている。

途端に私は、生まれてこの方。今までに感じたことがない程の安堵感と説明のしようがない幸福感に包まれた。

さっき優斗君に泣いちゃダメって言われたのに......。

でも、この涙は嬉しい涙だから。笑顔と同じ ーー。

「沙綾......」

彼は私の名前を呼んで、頬を伝う涙を温かな指先で静かに拭ってくれた。

そんな私達の様子を両親は何も言わずに、一歩下がって見守っていた。

私達の様子を見て両親がどういう感想を持ったかは分からないけれど。彼と私が、お互いに唯一無二の存在で恋人以上に打ち解けた関係であることは確実に伝わっていたと思う。

< 129 / 136 >

この作品をシェア

pagetop