拘束時間   〜 追憶の絆 〜
ーー 2030年 4月 ーー


今日は、息子の入園式。

空は晴れ渡り澄みきって、道沿いには桜が咲いている。

おめでたい日に相応しい小春日和だ。

息子を見ていると思い出す。幼い頃の甘く淡い初恋の記憶を。

そして、春風に揺れる桜の花を見て思い出す。甘美で鮮やかな愛の日々を。

その想いは全て。今も一人の女性に、たゆまなく注がれている。

12年前の桜の花は、霧雨に儚く散って涙と共に消えていった……。

悲しい初恋の記憶を胸に秘めた恋を知らない無垢な彼女は、遅咲きの桜が散り始めた頃。当時、新社会人だった俺と出会った。

「あの頃。俺と沙綾の胸に棲んでいた悲しい思い出は、今は大きな感謝に変わってる」

「うん。そして私達のかけがえのない大切な命として元気に育ってる。きっと、あの子は優斗君の生まれ変わりで。姿を変えて私達のもとへやってきてくれたんだと信じてる。そう思えるのは12年前の春に、あなたと出会えたから......」

「覚えてる? 12年前の、俺達のファーストキス」

「ううん。覚えてない」

艶めく彼女の桜色の唇が、二度目のファーストキスを求めて嘘をついた。

「じゃあ、このキスも忘れてね。又、12年後に三度目のファーストキスをしよう」


揺れる木漏れ日の中に寄り添う二つの影を映しながら。たなびく彼女の髪を撫でたあと、今は妻となり母となった愛する女(ひと)へ。俺は春風を抱くように優しくキスをした……。

「沙綾、愛してる」



Fin・*:.。. .。.:*・゜゚
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