拘束時間 〜 追憶の絆 〜

　「戸川君が人事異動......」

　二人で海を見に行った日に彼から聞かされた話。

　こんなに早いサイクルで人事異動が、あるなんて普通じゃない。

　彼は前の部署も一ヶ月足らずでうちの課に異動してきた。

　戸川君だけ特別に、なぜ？

　特別......。

　そういえば、戸川君は。とても新入社員の給料じゃ住めないマンションに住んでいるし。

　しかも、あの高級車　ーー。
　
　マンションは、戸川君のお父さんの知り合いが大家さんだから、なんて言ってるけど。
　
　まさか......！！彼、社長の息子とかじゃないよね！？

　ーー　うちの社長の苗字は藤川だから、それは無いか......。

　優斗君の家に向かうまでの道のり、私は初めて優斗君以外の男（ひと）のことを考えた　ーー。



　「まあ......！沙綾ちゃん。毎年、本当にありがとうね。優斗も、きっと喜んでるわ......！」

　優斗君のお母さんは、私がお参りに来るといつも嬉しそうに迎えてくれる。

　一人息子の優斗君を失って、とても辛いだろうに......。

　優斗君のお母さんは、その辛さを表には微塵も出さない強い人。そして、優しい人。

　優斗君は、お母さんによく似ていた。
　
　ツヤツヤの黒髪、意志が強くて真っ直ぐな瞳、優しい所......。

　私は、そんな優斗君が大好きだった。

　お参りに来ると、いつも思い知らされる。
　
　ーー　優斗君は亡くなったんだってこと......。

　お仏壇の脇には優斗君へのお供え物が並んでいた。

『戸川 理玖斗』『戸川 尋斗』『藤川 忠行』『戸川 怜斗』
　
　優斗君へのお供え物に記された名前。

『理玖斗』『尋斗』『怜斗』

　優斗君と同じ、名前に『斗』がついている。
　
　ごく近しい親族なのかな......？
　
　『藤川 忠行』

　どうして？優斗君へのお供え物に、うちの会社の社長の名前があるの？？

　いや、でも。ただの同姓同名かも、優斗君と戸川君だって同姓同名だし。

　でも、そう考えると余計に不思議。
　
　こんな因果な偶然って、ありえない　ーー。
　
　『戸川 優斗』君のお供え物に『藤川 忠行』社長の名前、
　
　そして『藤川 忠行』社長の会社の社員に『戸川 優斗』

　ーー　本当に、何か特別な事が起こっているのだろうか......？？