拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 海で突然の雷雨に見舞われた私達は体中から雫を滴らせながら車内で見つめ合い、言葉なく自然と求めあった......。

 会話もせずに、眼差しだけで相手の気持ちを確かめて。

 経験がなくても。ちゃんと、どうすればいいか知ってるんだな。

 ”本能”ってやつには驚かされる。

 あのまま彼とキスしていたら、

 それは、私のファーストキスになった。


 ーー 二人きりの社内で、彼に”抱きしめる”と言われて私は困惑してしまい、返す言葉が見つからず会話が続かない。

 そうなると。やはり本能で、これから彼は私を抱きしめるのだろうか ーー?

 
 「ははっ!冗談だよっ!」

 海での雷鳴のように、今度は彼が自ら場の空気を打ち消した。

 彼は、冗談と言って笑ったが。普段ゆったりとした印象の彼が、やけに明朗に振る舞う様子は異様さを醸し出して、むしろ本心を晒け出していた......。

 彼は私の気持ちを試したんだ。

 一緒に海を見に行った日に、私達の気持ちが一つに溶け合ったことは真実。ということを確かめたかったのかもしれない......。

 今日、彼に会って。私は明らかに戸川君に対して恋心を抱いていることを自覚した。

 だけど、どうしても払拭できないことがある。

 それは、私の気持ちは果たして戸川君だけに向けられているものなのだろうか??

 優斗君の幻影を彼に見出そうとはしていないか?

 まだ、ハッキリとは分からない......。

 そんな中で、戸川君の私に対する気持ちはハッキリと伝わって来る。

 彼が、私に恋をしている。という気持ちが......。

 ーー そして、この日。彼から私への恋心を決定づける出来事が起こった。

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