拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 「今朝、顔が真っ赤だったけど具合は悪くない?」
 
 戸川君は、保護者宣言した通りに過保護なまでに私を気遣ってくれる。

 分ってるくせに。

 私の顔が赤くなったのは、戸川君に会ってドキドキしたからだってこと......。

 「沙綾ちゃん。今日の飲み会、無理しないでね」

 来週、一課に異動する戸川君のために今日の終業後、会社近くのダイニングバーで送別会が開かれる。
 
 「うん。ありがとう。戸川君も、皆に気を使って飲みすぎないでね......」

 なんだか、夫婦の会話みたい。
 
 まだ恋人同士にもなっていないのに......。

 

 2時間の飲み放題が、お開きになる頃には参加者みんな酔いが回り、無礼講さながらの会話が飛び交っていた。

 「牧村ちゃん、彼氏いるのー??」
 
 すっかり酔いが回った同じ課の男の先輩が唐突に私に聞いてきた。
 
 先輩は、私の肩に手を回してきた。

 .......嫌だ。お酒臭いし......それに、怖い。

 「いえ......。いませんけど......」
 
 「えー!マジー!?じゃあ、オレと付き合っちゃおうよ〜!今から、ここ抜けない?二人きりで飲み直そうよ〜!」

 こういう場に慣れていない私は、どう対処していいのか分からない。

 どうしよう、このままだと流されそう.…..。

 「浦田さん。じゃあ、俺と抜けますか?」

 先輩にそう言いながら、ニコニコと笑う戸川君が会話に入ってきた。
 
 きっと彼は飲み会の間中、自分が主役であるにもかかわらず、酔っ払ったタチの悪い先輩に私が絡まれてないか見ていてくれたんだ.....。

 「はぁ〜?お前じゃ役不足だよ〜!オレは牧村ちゃんと仲良くしたいんだよ〜!ね〜っっ!沙綾ちゃん」
 
 浦田さんは、私の肩を抱いたまま今度は、私に覆いかぶさって来た。
 
 嫌だ!!離して.......っ!!

 「浦田さん、それセクハラですよ。第一、牧村さんのような清純な女性に浦田さんみたいな軽い男は、到底釣り合いませんよ」
 
 「ハァ!?なんだと......!!つーか、何。お前妬いてんの!!?」

 戸川君の言葉に激昂した浦田さんは、彼の席に周り。戸川君の胸ぐらを掴んだ ーー。

 「話なら外でいくらでも聞きますよ。でも、その前に。牧村さんにきちんと謝ってください」
 
 一触即発の事態に場が凍りついた。
 
 どうしよう!!彼が、私のせいで怪我をしてしまうかもしれない!!
 
 「コラ〜ッ!二人とも飲み過ぎぃ〜っ!浦田君、大丈夫。私が相手してあげるから」
 
 「え〜......、塩野さん......」

 場の空気を変えたのは、戸川君と私の研修を担当している塩野さんだった。

 「戸川君も、そう粋がらないのぉ〜っ。本当に若い子は、もぉ〜っ!」

 塩野さんのおかげで飲み会の雰囲気は明るくなり、事なきを得た。

 そして、この一件で翌日の課内は、戸川君と私が付き合っているという噂で持ちきりになった ーー。
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