拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 ーー 2018年7月15日 ーー


 「今日の晩ゴハンどうする??」

 彼と毎日交わされる、この会話。

 「俺、今日。定時で上がれるから一緒に帰ろう。それで、帰りに買い物して......二人で晩飯作ろうよ?」

 「うん、そうするっ!」

 毎日。同じ時間に二人で家を出て、同じ電車に乗って、同じ会社に着いて、違う課で働いて......同じ家に帰ってくる。

 ”二人暮らし”

 こんなに安らぎに満ちて心地良い日々が訪れるなんて、思ってもみなかった。

 やっぱり。彼に告白されて「うん」と返事をした時、あれはお酒のせいなんかじゃなくて、

 ”恋の魔法”......でもなくて。

 『運命』だった。そう思える。

 
 「そろそろ、行こう?」

 さっき私が結んだ。飴色のネクタイの結び目をきつくしながら彼が言った。

 「あっ、うん」

 私は飲みかけのコーヒーを台所のシンクへ置き、玄関に向かおうとした。その時、

 「沙綾」

 不意に、彼が私を呼び止めた。

 「んっ......っ。」
 
 振り向きざまの無防備な唇に覚えた、温かくて柔らかな感触。
 
 「同じとこ行くけど、”行ってきます”のキス.....」 

 そろそろ行こうって言ったのは、優斗の方なのに。いいの?遅刻しちゃうよ??

 「......っ、コーヒーの味がする。沙綾の唇と、舌も......」

 「ダメ......ッ、行ってきますのキスは、もっと軽いものだよ.....っ」

 出社前の早朝。私達は玄関先のエントランスで、まるで真夜中にするようなキスを交わし続けた。

 「帰ってきたら、キスの続きしようね」

 困るよ、そんなこと言われたら。これから会社なのに、クラクラしてしまう。
 
 「......うん」

 でも、定時が待ち遠しい。

 今日は彼と一緒に帰れる ーー。


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