拘束時間   〜 追憶の絆 〜
戸川さんからの食事の誘い。
 
彼は一体、私をどういう気持ちで食事に誘っているのだろう??

少なからず彼が私に何かしらの興味を抱いていることは確か......。
 
まさか ーー。
 
私は、戸川さんへ優斗君の話をしたことが脳裏をよぎった。
 
「いいですよ。お食事、ご一緒させていただきます」

「良かった。牧村さん、何か食べたいものありますか?好きな食べ物は?あっ、嫌いな食べ物とかあったら遠慮なく言ってください」

そうだよね......。戸川さんが『優斗君』なわけないよね......。
 
優斗君は、私の好きな食べ物も嫌いな食べ物も知っていた。
 
「嫌いな食べ物は、ありません。美味しいものなら、なんでも好きです。戸川さんの行きたいお店に連れて行ってください......」
 
今は食べられるようになったけど。子供の頃は魚が苦手で、給食の時間には代わりに隣の席の優斗君が私の分も食べてくれていたことを思い出した。
  
そう。優斗君は優しかった......。

「牧村さん?どうしました......?」 
 
急に表情が消えて様子が変わった私を見て、戸川さんは少し戸惑っていた。

優斗君の元気な姿と優しさを思い出して、私は切なくなった......。

私は、迂闊にも戸川さんの前で涙を見せてしまった。
 
「これ使ってください......」

戸川さんは涙が止まらず困っている私に、そっと自分のハンカチを貸してくれた。

男の人がハンカチを持っている姿に、”几帳面な人だなぁ。”と、一瞬感想を持ったが。それ以上に社会人として、きちんとしたマナーを持っている人なんだなと、尊敬した。 
 
ーー 何よりも、戸川さんはやっぱり優しい人だと思った。 
 
「大丈夫ですか??行きましょう......」
 
戸川さんは、ようやく私の涙がおさまった所で。付き添うようにして並んで歩いてくれた。
 
「ゴハン食べられますか?無理しなくて大丈夫。俺で良かったら話聞かせてください」

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