拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 「コースの他に、アラカルトでも頼みなよ?好きなもの食べて」

 このお店の単品料理は、ファミレスのセットメニューよりずっと高い。

 それでも優斗は。そんなことは気にしないどころか、分からないと言った方がいいように見えた。

 「いいの?そんなに頼んでも?大丈夫なの......?」

 彼が良家の子息であることは、ほぼ間違いない。しかし、一品料理でこの値段なのはさすがに気が引ける。

 「え?大丈夫だよ。沙綾、お腹すいてるだろう?」

 優斗は私が値段を気にしていることに、まるで気がついていない様子で。不思議そうに、すっきりとした二重まぶたをしたアーモンド型の瞳をしきりに瞬きさせていた。

 「沙綾が頼まなくても俺が頼むよ。本当、腹減った......」

 「優斗、今日はごめんね。道ずれで残業させちゃって」
 
 「沙綾のせいじゃないって言っただろう?気にしないで。今は、仕事の話は止めよう。ね?」

 ”シュン”とした私を見て彼は、元気を出させようと。次々にファミレスの一品料理の10倍以上もの値段がする、この店のアラカルトを次々と注文していった。

 一品食べ終えると、ひっきりなしに運ばれてくる高級料理を優斗は綺麗に完食していく。

 お金持ちのお坊ちゃんである彼の、普通の22歳の男の子らしい食べっぷりを見て私は、どこかホッとした。

 そんな彼の姿を私が”ポーッ”として見つめていたら。突然、落ち着いた大人の男性の声が優斗を呼んだ。

 「優斗っ!」

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