拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 優斗は名前を呼ばれた方へと視線を合わせた。そして私も彼の視線を追った。

 「父さん......!」

 「お前が来てるってオーナーから聞いて。......こちらのお嬢さんは?」
 
 「紹介するよ。牧村 沙綾さん」

 「初めまして。牧村 沙綾です。戸川君とは同期で、色々とお世話になっています......」

 ”初めまして”と、言ったのに。優斗のお父さんに挨拶した時、私は以前にもお会いしたような感覚に捉われた。
 
 「初めまして、沙綾さん。優斗の父の尋斗です。いつも息子がお世話になって......」

 優斗のお父さんは、私に丁寧に挨拶をしてくださり、名刺までくださった。礼儀として私はその場で名刺に目を通したが、緊張のあまりそこに書かれていた文字は全く頭に入ってこなかった。

 「父さん。俺達、付き合ってるんだ。俺、彼女と結婚したいと思ってる」
 
 優斗は、突然。お父さんに私とのことを切り出した。

 「え.....、あ......」

 優斗のあまりに唐突な発言に対して。私は、あたふたするばかりで言葉が出てこない。

 「そうか!じゃあ。近い将来、孫の顔も見れそうか?沙綾さん、優斗をどうぞよろしくお願いします」

 「あ.....、はい......」

 怒涛の急展開に圧倒され、私は勢いに押されて思わず返事をした。そんな私に彼のお父さんは笑顔で頷いた。

 そして、彼も満面の笑みを浮かべてる。

 これ以上、彼のお父さんに何かを聞かれたところで、一体どうすればいいのかと困っていた時、

 「社長っ、お坊っちゃまとの談笑中に申し訳ございませんが。そろそろお戻りになりませんと、クライアントが......」

 グレーのリクルートスーツをかっちりと着こなして銀縁眼鏡をかけた几帳面そうな男性が来て優斗のお父さんに告げた。そして、その男性は今度は優斗へと視線を合わせた。
 
 「お坊っちゃま。お久しぶりでございます」

 「三宅さん!」

 一連のやりとりを傍観していた私は妙に納得していた。

 これで。優斗が社長令息で、お金持ちのお坊っちゃまであることが判明した。

 「お坊っちゃまのお帰りを『personal advertise』の社員一同でお待ち致しております」

 私は、その三宅さんという男性の口から出た言葉に度肝を抜かれた。

 『personal advertise』は、優斗と私が勤めている『株式会社GEED』の、大本の親会社で世界を股にかける大財閥だった ーー。

 ということは。優斗は社長令息の中でも、桁違いの御曹司......!

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