拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 優斗の父である、『personal advertise』の戸川社長が側近の三宅さんとともに去った後、優斗は静かに語りだした。

 「驚かせて、ごめんね。隠してたつもりはなかったんだけど......」

 驚愕のあまり言葉を失っている私を前に彼は話続けた。

 「地位や権力を振りかざすんじゃなくて、沙綾に俺自身を見てもらいたかったんだ」
 
 そう言って優斗は、悪びれて少し憂いのある笑みを浮かべた。

 しかし、優斗は御曹司と名乗らなくても。言葉遣いや、身のこなしに品があり、育ちの良さが滲み出ている。

 そんな根っから御曹司の彼が、なぜ、わざわざ父の子会社である『GEED』の、平社員として働いているのだろう?

 平凡な中流家庭で育った私からすると、そこが最大の疑問点だった。

 「いずれ、親父の会社を継ぐために。今は叔父さんの会社で修行中なんだ。最初から親父の会社に入ると、御曹司って目で見られて気を使われるから。自分が本当は、どこまでやれてるのかわからない。だから、社会勉強も兼ねて、普通の会社員として働かせてもらってる」

 今まで彼の傍に居た私は、本当に彼らしい理由だと思った。

 それにしても。優斗が『GEED』の、藤川社長の甥っ子だったとは......。

 今夜、思わぬ事態から彼の身分を知った私。

 もしも今日、偶然にも優斗のお父さんに遭わなかったら、いつ彼は私に打ち明けてくれたのだろう?

 それでも、今まで彼の身分を知らなくても一緒にいられたのは、彼自身に信頼が置けたからだ。

 優斗の立場を知る前も、知った後も、彼に対する私の気持ちは変わらず。

 むしろ、大財閥の御曹司でありながら。その恵まれた地位に甘んじることなく、切磋琢磨する姿勢を知って私は益々、彼を尊敬した。

 そして、お父さんにきちんと私を恋人として紹介してくれて、結婚したいと言ってくれたことを思い返すと、私は胸がキュンッと鳴いて、愛しさが込み上げた......。
 
 すると、私は今すぐ彼に寄り添いたくなった。

 テーブルが隔てる、彼と私の僅かな距離がもどかしい ーー。
 
 でも、そう急ぐこともないか。だって明日は休日。

 甘い時間は、この後たくさん......。
 
< 47 / 136 >

この作品をシェア

pagetop