拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 ヨーロッパ風のデザインが施してある背の高い街灯が照らす、静かな直線の道を彼と私は手を繋いで歩いた。

 緩やかな下り坂の足元に広がる繁華街の灯りは、週末の夜ということもあり。深夜の10時をまわって、より煌々と輝いていた。

 月の出ていない暗い空だというのに、そんなことはまるで関係のない都会の夜。騒々しい繁華街の裾野にたどり着く前に、彼は道すがらタクシーを拾った。

 「お客さん達、カップル?いいねぇ。ラブラブだねぇ」

 ベテランとおぼしきタクシードライバーに私達はひやかされたが無理もない。なぜなら、私が憚らず彼の肩に頭を乗せていたから。

 「明日は土曜日だし。何?これからお泊まり??」

 「いえ、あの。俺達、一緒に住んでるんです」

 「ああ、そうなの!じゃあ、毎日がデートだ!いいねぇ〜、若い人は。うちのカミさんなんか、もう......、」

 『うちのカミさん。』か......。いつか、私も”俺の奥さん”とか言われるのかな ーー。

 運転手さんの話に相槌を打ちながら。20分後、マンションに着いた。

 
 「沙綾〜っ、俺風呂入ってくる」

 「あ、うんっ」

 私が自分の部屋で着替えていると、扉の向こうから優斗の声がした。

 お風呂に入っている彼と着替えている私。

 今、この一つ屋根の下で。お互い”あられもない姿”をしつつ、私達はお互いの裸を一度たりとも目の当たりにしたことはない。

 優斗の身分が判明して、さらに彼のお父さんから交際を認められた今夜、もう一歩先に進む時期なのかもしれない。

 私は心密かに。今夜のベッドルームで彼と私は新たな局面を迎えるような気がしていた。

 
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