拘束時間   〜 追憶の絆 〜
”私には”優しくしたいって、一体どうしてだろう??
 
いくら恋愛経験ゼロの私でも、これくらい分かる。

ーー それってつまり、"特別"ってことでしょ......!?

戸川さんの言葉は、まるでお酒のように。男性に対して免疫の無い私を酔わせた。

「牧村さん?どうしました?ぼーっとして。それから少し、頬が赤いような......」

なんだか、頭がクラクラする。
 
おかしい。お店の中には他にもお客さんがいるのに、私の目には戸川さんしか入らない --。

私の変調に気がつき、彼は言った。
 
「具合悪いですか??ここ出ましょう......!早く休んだ方がいい」
 
そう言いい、先ほど交差点で私に付き添うように並んで歩いてくれた戸川さんは、今度はしっかりと私の肩を抱いて出入り口まで優しくエスコートしてくれた。

「ちょっと、ここに座って待っててください」

戸川さんは私を順番待ち用の椅子に座らせて、サッと会計を済ませた。

会計時に財布も出さず、ただ座って待っているだけの私は何もかも彼に任せっきりで申し訳ないと思った。

それから、彼を本当に頼もしいと思った ーー。

タクシーを拾ってくると言って。気分がすぐれない私を椅子に座らせたまま、彼は一人で店を出て行った。それからしばらくして店に戻って来ると、彼は私を支えながらタクシーが横付けされた路肩まで一緒に歩いてくれた。
 
「牧村さん、お家どこですか?話せますか......??」
 
「......はい。えっと......」
 
私の様子を見て心配した戸川さんも一緒にタクシーに乗った。
 
戸川さんが一緒にタクシーに乗ったことに安心した私は、彼の肩にもたれかかり目を閉じた ーー。
 
 
ーー 目を開けると、私はブルーブラックの色をした薄暗い部屋の中にいた。
 
ここは一体どこなのかと、ぼんやりとした頭で考えていると聞きなれた声がした。
 
私は耳元で聞こえた声の主に焦点を合わせた。
 
「気分はどう......??」          
 
彼は、私の前髪を軽く人差し指の腹で撫でながら優しく聞いた。
 
「戸川さん......」
 
暗がりの中、かすかに見える彼の顔。しかし、何か様子が違う。

私は妄想の中の僅かな望みにかけて、初恋の男(ひと)の名前を呼んだ。
 
「優斗君......?」
 
すると彼は安心したように、静かに頷き。優しく微笑んでくれた......。
 
私の目から情景反射的に涙が溢れた。

「なんで今まで黙ってたの......っ!?優斗君......っ!!」
 
私は気がつくと彼の首元に顔を埋めてキツく抱きしめていた。
 
優斗君は子供のように泣きじゃくる私を両腕で強く抱きしめて優しく背中をさすりながら、なだめるように言った。
 
「ごめん......。ごめん......っ!俺のこと、ずっと待っててくれたんだね。ありがとう、沙綾」


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