拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 私は、話の続きを聞くのが怖くなった。

 過去が暴かれていくごとに、彼自身が傷ついていくのではないかと怖くなった......。

 傷ついた彼を見るのが怖い。

 真実を知って驚愕しているのは私の方なのに、

 何よりも彼を案じている......。

 悔しい。こんな時に気がつくなんて。

 私。彼を愛している ーー。

 辛い。今まで私の中で育まれていた彼との時間が全て偽りだったなんて......。

 優しく抱きしめてくれた時も。

 熱いキスをくれた時も。

 初めから。彼と私の間は隔絶されていた。



 私は、ずっとあなたのことを信じていた。

 あなたは??

 私は、ありのままのあなたに愛されたかった。

 私、あなたのこと何て呼べばいいの?



 彼を”優斗”と、親しみを込めて呼んでいたことが虚しく思える。

 私は、今日まで何も疑うことなく。彼を信じて無邪気に笑ってた。

 悲しすぎて。そんな自分が滑稽に思えてくる。
 
 突きつけられた現実から逃げ出したい。

 この家が、彼の姿が、彼と私を取り巻く空気が歪んで見える。

 どうにも耐えられそうにない。

 ......ここに居たくない。

 「さよなら......」

 へたり込んでいた私は突如立ち上がり、一目散に玄関へと向かった。

 「沙綾っっ!!」

 私は衝動の赴くままに扉を開けて彼から、そして、彼と暮らす家から逃げた。

 「待って!!沙綾っっ!!」

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