拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 俺の心も身体も無性に彼女を求めて止まない。
 
 冷たいベッドは余計に彼女を求めさせる。横になって随分時間が経っても、一向に眠気は訪れなかった。

 スマホのデジタル時計を見ると、深夜の一時。

 彼女は、きちんと眠れているだろうか?

 やはり俺は過保護な狼だ。

 彼女は俺を動物に例えるとライオンと言ったが。万が一にも俺は、我が子を谷に落とすようなことはできない。
 
 もし、彼女を動物に例えるとしたら、

 ”うさぎ” ーー。

 うさぎは寂しいと死んでしまうらしい......。

 うさぎのように寂しがりやで、甘えん坊な彼女に俺は「さよなら」と言わせてしまった......。

 ”さよなら。”

 たった4文字の日本語だ。

 意味を知らなければ笑っていられるのに。俺は彼女が言った、その4文字の言葉に泣いた ーー。

 それは自分を憂いた涙ではなく。

 そう決断した彼女の気持ちを思うと、ナイフで心臓をえぐられたように血の涙が溢れて仕方がなかった......。

 ーー 彼女は今頃、独りで泣いてはいないだろうか?

 俺は心配になって居てもたってもいられなくなった。

 そして、彼女がきちんと部屋で休んでいるかどうか、一度マンションへ様子を確かめに行くことにした。

 ホテルのフロントへ鍵を預けて街へ繰り出すと、相変わらずの喧騒が俺を取り囲んだ。

 俺は比較的近距離であるにもかかわらず。一刻も早く彼女のもとへ行きたくて、ほんの1Km程度の距離をタクシーを使った。

 僅かな距離で申し訳なく思った俺は、タクシーの運転手へチップを多めに渡して礼を言った。

 マンションへ着き、そっとドアを開けて寝室を覗くと、毛布にくるまり身体を丸めて眠っている彼女の姿があった。

 安堵した俺は一気に緊張の糸が解けて、崩れるように寝室の外に座り込み気がつけばそのまま寝入っていた。

 数時間後、目が覚めると太陽が昇り始めていて、この時間なら女性が一人で出歩いても安心だと思い。俺はホテルへ戻り出社の準備をした。

 会社で彼女と会うために......。
 
< 99 / 136 >

この作品をシェア

pagetop