真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
どれくらいの時間そうしていただろう?

黄昏のビルのガラス窓に映写された熟れた太陽を背に受けて、対面のウィンドウを眺める端正な横顔のその男(ひと)を彼だと思いながら。それでも、有り得ないことだと私はくっきりと見開いた目で、その男性の身体の隅々までを見極めながら本当に彼なのかと見つめ続けていた。

ダークグレーのトレンチコートを軽やかに羽織った襟元から覗く、夕焼けに染まった折り目正しいワイシャツ。
ワックスで自然な動きをつけた焦げ茶色に艶めく髪。
潤んだ虹彩が夕陽の光線を反射して輝く美しい瞳。

ときめきと戸惑いに心揺れながら視線を奪われていると突如、彼が振り向いた。

間違いなく広務さんだーー。

広務さんの視線は大きく私から反れて、会社の正面入り口付近を歩いている横澤さんに向けられていた。この時どうして広務さんは横澤さんに視線を向けたのか、そして、なぜ横澤さんが広務さんを知っているのか、という疑問を持つ余裕は私にはなかった。

横澤さんに気づいた広務さんは一瞬、少しだけ驚いた顔をして、そのあと儚く微笑んだ。それから軽く周囲を見渡して、ようやく彼の視線は私を捉えた。

広務さん、今あなたの瞳に私は、どういう女に映ってる?

恋人?

それとも.......憐れな女?

軽々しくは口に出来ない質問を心の中で投げかけながら、私は暫くの間、彼と見つめあった。

その時間は体感していたよりもずっと長くて、彼を見つめて立ち尽くしている間に、私の後ろを歩いていた実加と横澤さんは、すぐ側まで距離を縮めていた。

二人の気配を背中に感じたのと同じくして、広務さんが思いきったように、こちらに向かって歩み始めた。

夕暮れの街に散りばめられたネオンの雫を浴びながら、歩道をまるでステージのように進む彼の鮮烈な姿に私は、あの時見た悲しい場面を天秤にかける余地もなく、無条件で愛しい気持ちがこみ上げた。

私、やっぱり広務さんが好き......。

彼の方から会いに来てくれたってことはーー。

胸に仄かな期待を抱くも、距離が縮まるごとに、はっきりと見えて来る彼の表情は険しく辛辣だった......。

やがて、期待が不安に変わり、上向いていた頬が下垂した時、広務さんは私のもとへと辿り着いた。

「優花が仕事を終わるの待ってた。......話があるんだ」

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